今年2016年の5月から、「育てるコワーキング札幌」の運営に関わっています。
私もメンバーの一員である「一般社団法人Edu」のコワーキング事業部が運営する「育てるコワーキング札幌」。
札幌駅北口徒歩3分、
北海道大学正門横にある
「札幌カフェ」を土曜日に借りて運営しています。
さて、その関係で「カフェ運営」についての本を最近読んでいます。
最近、良かったのが『カフェという場の作り方』。
大阪で日替わり店長制を取るカフェ「コモンカフェ」代表の
山納洋さんの書いた本。
日本におけるカフェの歴史からはじまり、
カフェ運営のポイントと苦労をエピソード交えつつ語っています。
印象深いのは「日本でカフェをはじめに開いた男」の話。
その人物は鄭永慶(ていえいけい)。
全く日本人っぽさを感じない名前ですが、
「代々長崎で中国語通訳をしていた家計の日本人」(13)。
彼は1888年、上野に
日本最初の喫茶店「可否茶館(かひさかん)」を開店します。
16歳でアメリカ留学、
戻ってきた後に岡山師範中学校教諭→大蔵省と
華々しく活躍します。
(当時の「中学校教諭」は現在の「大学教授」にも当たるようなエリートポストです)
しかし、大蔵省では不遇な扱い。
しかも、自宅が全焼。
再出発をはかるべく、永慶は友人から借金をして、家の焼け跡に2階建ての西洋館を建て「可否茶館」を開業しました。30歳の時のことです。(・・・)
永慶はそこで「大衆庶民や若者のための社交サロン」「知識の交友の広場」としての喫茶店を開店しようと考えたのです。(14)
思いを持っての開店。
ビリヤード台や国内外の新聞・雑誌・書籍を置いた空間。
洒落た場所だったようですが、
「時代の先を生き過ぎていたようです」(15)。
コーヒーを誰も知らないころに、
高額な値段でコーヒーを出す店が流行るでしょうか???
案の定、店を閉めてしまいます。
この話のポイントは、永慶が金儲けとしてではなく、今の僕らと同じように「西欧のカフェ文化を日本に伝えたい」というロマンから喫茶店を始めていたということです。(15)
つまり「理念先行」。
「~~をやってみたい!」という思いからの起業です。
本書ではこれを「シーズ発想」といいます。
シーズ(=種子)発想とは、「技術や素材やアイデアが先にあって、それをどうすれば商品にできるだろうか」と、自分視点から始める発想法です。(64)
いままで自分はこんな経験をしてきた。
だから「これで起業する!」という発想。
「専門学校で料理を学んできた」から、
そこで学んだことを活かして起業する!という発想です。
「シーズ発想」に対するものとして、「ニーズ発想」があります。
ニーズ発想とは、「お客さんはこんなニーズを持っているが、それを満たすことができる商品、サービスはないか?」と、お客さん視点から始める発想法です。カフェでいえば、地域にお年寄りが多いのでモーニングサービスをする、OLを意識して体に優しいランチを提供する、というのがこれに当たります。(64)
別の言い方をすると、シーズ発想は「自分が売りたいものを売る」、ニーズ発想は「お客さんが求めるものを売る」ということです。(64)
これ、実に「耳が痛い」言葉です。
「起業したい!」
「店を持ちたい!」
「こんなことやってみたい!」という人は、
往々にして「ニーズ発想」をしないからです。
「自分が好きなモノなら、みんな好きなはずだ!」
「店を開けば、勝手に流行るはずだ!」
実に身勝手な理由で「起業」や「開店」している人が
あまりに多いのです。
一時期、喫茶店が「儲かるビジネス」だった時期があります。
戦前の30年代、そして高度経済成長期です。
その頃に喫茶店をやっていた人は、ある意味
「諦め」ています。
自分がやりたいから(=シーズ発想)ではなく、
「儲かる」、つまりお客が求めている(=ニーズ発想)から
喫茶店をしていたのです。
「特にやりたいわけではない」けれど、
儲かるから「ずっと続けられる」状態でした。
単に「やりたいことする」だけではビジネスにならないわけです。
ただ、カフェ業界は「やりたいから、やる」人が今たくさんいます。
今、だけではありません。
だって日本で初めてカフェを作った人物が、
「ニーズ」関係なくはじめてしまっているんですから・・・・。
現在、カフェは斜陽産業です。
喫茶店にまで行かなくても、コンビニでおいしいコーヒーが飲めるからです。
以前活用されていた「待ち合わせ」や「談話スペース」というカフェの機能も、
携帯電話やスマホ、ネットが代替するようになってしまったのです。
もう、ただ「儲かる」だけでカフェはできません。
「カフェをやりたい!」「こういうサービスを提供したい!」という「シーズ発想」に、
「どうやったら売れるだろうか」という「ニーズ発想」を盛り込むことが必要です。
あれ・・・?
書いていると、コワーキングスペースを思い出してきました。
人間、だれしも「これをやってみたい!」という思いを持っています。
その思いを「やってみる」場所、実は意外にありません。
「ちょっとセミナーをやってみたい!」
「お店を出したい!」と思っても、
ふつうは「何十万円」とお金がかかるからです。
(参考:「やってみたい!」をカタチにしよう。~私がイベントを乱発するようになった理由~)
誰もそんなリスクをとれないから、
「やってみたい」ことをしないまま、年老いてしまうのです。
でも、「じゃあ、やってみよう!」とイキナリ起業すると、
「ニーズ発想」がないもんだから、
すぐ廃業してしまいます。
(参考:イキナリ起業すると失敗する理由~起業の前には、イベントをしよう。~)
「シーズ発想」を活かしつつ、
「ニーズ発想」を学べる場が必要なんです。
その場所こそ、コワーキング・スペース。
「ちょっと、やってみたい!」という人にとって
大事な場所です。
にもかかわらず、札幌はじめ全国的に「コワーキング・スペース」も減りかけています。
だからこそ、「やってみたいをカタチにする」を掲げる一般社団法人Eduで「育てるコワーキング札幌」を行うようになったわけです。
(参考:コワーキングってなあに?~「やってみたい!」をカタチにする場所~)
コワーキング・スペースは、
「シーズ発想」と「ニーズ発想」を混ぜあわせる場なんですね!
この本、カフェを「やってみたい!」人にとって役立つだけでなく、
やみくもに「起業したい!」人にとっても新たな気づきを得られるはずです。
個人的には、カフェ分析に当たる部分が面白かったです。
例)「常連さんを中心に閉じていくお店」(101)など。
さて、この本を活かし、「育てるコワーキング札幌」も
さらに盛り上げていかないと・・・。
あ、「育てるコワーキング札幌」で
「こんなことやってみたい!」ということがある方は
お気軽にこちらまで!