2014年 9月 の投稿一覧

真の教育的関係とは?

映画評:『Stand by me ドラえもん

寺山修司。
彼はいまや高校教科書にも登場する人物である。
(本人が生きていたら、おそらく辞退しただろうが)

彼の主義。それは心理的サヨナラ主義。

「花に嵐の喩えもあるさ
サヨナラだけが人生だ」(井伏鱒二)

教育は、ハッキリ言って虚しい側面を持つ。
それは教育の目的が、教育者への「サヨナラ」とつながりあっているからだ。

映画『Stand by me ドラえもん』は感動作である。
なぜ感動作なのか。
それはドラえもんの活躍自体が「サヨナラ」とつながりあっているためである。

 

これまでのドラえもんの全作品の総集編的意味を持つ本作。
ドラえもんの役割が「のび太の不幸な未来を変更するためのコーチ」として描かれる。

 

ドラえもんはのび太の未来を変更しない限り、未来に帰ることは出来ない。
原作にはなかった設定である。

この設定のために、ドラえもんは原作以上にのび太の成長およびのび太の未来の変更に必死になる。

のび太自身の「未来を何とか変えないといけない」という願望と、
コーチであるドラえもんの「のび太の未来を変えないと、自分が未来に帰れない」という要望とが一致する。

コーチの動機も、クライアントたるのび太の動機と一致するのである。

それゆえ、原作ではものすごく時間がかかったドラえもんとのび太との「出会いと別れ」が、本作では恐ろしいほど早く実現されるのである。

 

さて。
一度ブログで書いたこともあるが、ドラえもんの虚しさは「自分が不要になるように、のび太を成長させる」という矛盾した存在であるところにある。

「あんなこといいな/できたらいいな」を実現する主体たるドラえもんは、
全知全能の神にも近い存在だ。

そんな存在がいると、のび太がますます駄目になる可能性がある。
そのなかでドラえもんは、自己が不要になるように少しずつのび太を成長させていく。
そしてコーチたる自分がいなくても大丈夫なようにしていく。

内田樹ではないが、人は「自己が不要になるように努力する」人に対し感動を覚える。
「夜回り先生」も、自分がいらない社会を目指すがゆえに、人に感動を与えている。

 

「未来を変えるプロジェクト」としてのドラえもんのストーリーなのである。
のび太の成長を支えるのが「ひみつ道具」である。

「どうせ」といって諦めていたらいつまでたっても今のまま。
だから「未来変更プロジェクト」が必要になってくる。

 

教育は教育を受ける側が「コーチがいなくても、自分で何とかする力」を学ぶことにゴールがある。

そこにの虚しさがある。
みずからの主体になる努力。
ものを考え、自分で何とかする力。

それを学び、一度コーチと「サヨナラ」するからこそ、
本作はラストでコーチとの友情関係を成立させることができる。

 

 

真の教育。
それは単なる教育者-被教育者関係を超えてこそ成立する「友情」のことを言うのかもしれない。

 

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就職は恋愛と同じ!

書評:鈴木健介, 2011, 『就活は子どもに任せるな』中公新書ラクレ.

高校教員をしていると、就職活動のための面接練習を多く行うこととなる。
そんなわけで、私は最近、面接者役として高校生相手に面接練習をけっこう行っている。

「あなたの志望理由を聞かせてください」
「学校生活で一番頑張ったことは何ですか」

これまで私は、自分がいまの学校に「内定」を受けた時と同じ面接戦略で面接練習を行ってきた。

ただ、
自分一人だけの面接経験で練習をして、本当にいいのかな」とも思っている。

そんなわけで、『就活は子どもに任せるな』というタイトルに惹かれ、本書を手にとったわけである。

結論から言うと、【就職は恋愛と同じ】という本。
このメッセージの重要性を常に感じる本である。

「就職は結婚と同じだと理解してください。そうすると行動の仕方、アプローチの仕方が自ずから変わってくるでしょう。
「モテる人」というのは顔かたちが秀でているのではありません。「マメ」なのです。何に対してマメなのかといえば、それはもちろん恋した相手に対してです」(84)

「就職活動の下手な人は、募集をかけている会社が求めている要件を無視して、自分のメリットばかりを売り込もうとする人です」(87)

自分の好きな人に、一方的に自分の思いを伝えるだけでは相手は振り向いてはくれない。
そのためには相手について、まず知る必要がある。

(ものの恋愛本では、「彼女にしたい人の友だちを5人以上知っているか?」というチェックリストがある。入りたい会社と関わりの深い会社は一体どこか?)

その上で、相手にとって自分が魅力的(=戦力となる、貢献できる)なのはどこかを適切に、ウソなく、誠実に伝えていくことが必要だ。

誰も、自分以外に浮気をしている人と付き合いたいとは思わない。
首尾一貫して相手と付き合いたい思いを、適切に相手に伝えることが必要となる。

そのためには服装もふさわしいものとし、
言葉遣いもふさわしいものとする。

大事なのは相手への「一貫性」である。

一貫性を見る、とは、要するに、会社が求める「5つの質問」(182-185)への答えが適切かつ首尾一貫しているかということである。

①「なぜあなたは応募したのか」

②「何を訴えたいのか」

③「躍進するためには何が必要か」

④「そのためにはどうすればよいか」

⑤「あなたの話を信用してよいのか」

・・・これらに対し、きちんと答えられているだろうか。

恋愛と同じく、面接相手とのコミュニケーションのなかで、相手の求めることを察知していくのがセンラy区となる。

「面接官と話すときには、|
①応募目的がはっきりと表現されているか
②どんな人を採用したいと願っているか、企業側の目的をつかんでいるか
③採用対象者として自分が条件を満たしていることを的確に伝えているか
④面接官は、あなたが伝えようとしている「話の内容」を理解しながら聞いているか
などを、面接官の態度や返事から確認しながら続けることです」(185-186)

その上で、恋愛や結婚同様、結婚後(=入社後)の自分のビジョンが明確であることも見られている。

「基本は将来目標を明確にして就職活動に取り組んでいるかどうかになるでしょう」(186)

就活は恋愛と同じ。
幾多の恋愛本は「相手にとって受け入れやすい自分になる」ことを奨めている。
一方的に「私はあなたを好きだ!」といっても、相手が受け容れないならば、それはストーカーへの入り口となる。