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大村敦志・東大ロースクール大村ゼミ, 2011, 『22歳+への支援 ロースクールから考える大学院生の「支援システム」』羽村書店. |
大村敦志・東大ロースクール大村ゼミ, 2011, 『22歳+への支援 ロースクールから考える大学院生の「支援システム」』羽村書店.
修士課程2年 藤本研一
良くも悪くもロースクールの院生がつくった、という感じが強い本。この程度の水準・内容で出版できる事自体驚きであるが、帯紙に「ロースクール白書」と書いてしまうことに笑ってしまう。
アンケートも、例えばパーセンテージや総数を表示していないなど初歩的ミスが目立つ。また、東京大学ロースクールのゼミの有志で作成されているため、自分たちへの支援を呼びかける口調となっている。ゼミ調査の文献でなければ読まなかった本である。
内容はインタビュー集である。普段、どのように生活しているかわからないロースクール生に対し、勉強の仕方・学費・生活費・子育て支援など、院生目線で見たリサーチである。
インパクトが強いのはロースクールのシステムの特異性である。「司法試験を目指すロースクール生にとっては、終了後の5月に試験、9月に合格発表というスケジュールになっており、修了後の住居をどうするのか、その間の住居費はどうやって捻出するのか等の問題を抱えてい」(74)る点が特に大きい。学生寮の場合、大学院修了とともに出ていくことが必要である場所も存在するため、大学院生向けの住居支援の仕方に再考を促す内容となっている。
また、専門職大学院の一つであるため、社会人経験者や子育てを平行して行う院生も存在するため、保育園設備の重要性を訴えるなどの内容が記載されている。
細かく見ていくと冗長なため、結論部分のみを見ていく。
「本書で見てきた支援制度を前提にすると、ロースクール生に対する公的な支援は、学生一般または研究者養成のための支援の一環として行われているにすぎない現状があります。そしてその結果として、新しい法曹養成制度との関連で支援の空白期間(藤本注 上記のロースクールの日程を参照)が生じることになったり、支援不足のためにロースクールに通いたくても通えない人がいる可能性があります。一方、財団による奨学金に代表されるような私的な支援はそれぞれの理念に基づいており、ロースクール生に対象を絞った法曹関係者による支援なども存在します。これらの私的支援制度が公的支援の不足部分を穴埋めしているという側|面があると考えられます。(…)新しい法曹養成制度と連動し、ロースクール生のための公的支援が必要であると言うことはできないでしょうか」(118-119)
ロースクールは通常の大学院と異なる、という指摘である。そのため今までの大学院生支援と同じ発想で考えてはならない、という主張をしている。同様の主張には次のものもある。
「ロースクール生は修了後すぐに法曹として働き収入を得るということができません。にもかかわらず、大学院を修了しているため奨学金の返還義務が生じます。したがってロースクール修了後、法曹になるまでの間、奨学金を返還しながらどのように生活していくのかが大きな課題となります」(70)
ロースクールの特殊性を鑑みた上での奨学金制度の設備が必要であるようだ。
その後、筆者たちはロースクールの知見を広げ、大学院生一般に話を敷衍する。
「他の分野の大学院まで見渡したうえで、「大人」ではあるけれど経済的自立のできていない大学院生とはどのような存在であるか、それに対する現在の支援制度はどのように作られているのか、今後さらなる検討が必要です」(122)
なんとも私にとって耳の痛い内容であるが、疑問も感じる。ロースクールは本書にもあるように、学業に追われるためアルバイトをしにくい状況にある。その点、(われわれ)一般の文系大学院生とは少し異なっている。
大学院生に対する支援、という発想を本書から私は得ることができた。しかし、本書は院生目線のため、「支援しなければならない」という主張をしている。その支援理由は社会的弱者にも法曹になる「機会の均等」の実現から論を導いている。この論理から、例えば殆ど就職先のない大学院(哲学・倫理学など)に対しても「機会の均等」の上から支援が必要であると本当に述べることが出来るのか疑問である。大学院生への支援が本当に社会的に必要であるのかの議論が更に必要であろう。「モラトリアム」として大学院に入る院生が存在する(66)ことを想定する必要がある。
他の本書の不備として、基本的情報の記載がなされていない点があげられる。例えば東大ロースクールの学費が幾らかは当然視されているためか記載されない(筆者は110万円前後であったと記憶している)。
本書は東大ロースクールを目指す人にとっては代え難い貴重な資料集となるであろうが、私にとってはミニコミ誌にすぎなく感じられた。
以上。