香山リカ『くらべない幸せ』で、「これでいいんじゃない?」の大事さを知った。
香山リカさんは精神科医&大学教授。
個人的にすごく好きな作家です。
今日紹介するのは『くらべない幸せ』。
タイトルからして、昔の私が考えていたことそのものです。
大学院生だった私は、実質的に「うつ」症状。
その自分を「何とかする」ために自分なりに結論を出したのが、次のキャッチフレーズでした。
「他人と比べるな、昨日の自分と比べよ」
自分で考えたフレーズなのですが、割と気に入って使っていました。
比べると、すごく不安になる。
だからこそ、「比べないで、とりあえず頑張ろう」という思いにつなげました。
私の場合、大学院生としての「研究」にプラスして、ベンチャー企業での「インターンシップ」や自分の「イベント」開催などをするようになったのが解決の糸口でした。
他の人がやっていないようなことをして、「比較することの無意味さ」に気付いたわけです。
あとは「インターンシップ」を通して出会った、「変わった大人」との出会いが価値観を変えてくれたように思います。
普通に就職して、ひたすら働いてだけいる大人と違い、「変わった大人」たちは大手企業を潔くやめたり、よくわからないビジネスをしていたり、NPO活動に夢を見ていたりしていました。
そこから「普通」を外れることへの不安が割と減ったように感じます。
「人と比べるな、昨日の自分と比べよ」の意義
さて、「人と比べるな、昨日の自分と比べよ」というキャッチフレーズ。
これはSNSが広まった初期に感じていた「比べる不安」を、払拭するのに役立つキャッチフレーズでした。
当時、TwitterもFacebookも、ある意味「意識高い系」の言行録の体をなしていました。
「高学歴で社会意識が高く、色んな人と会い、世界を飛び回っている」感が伝わってきたのです。
今は無論、この幻想に気付きました。
SNSが「自己を飾る」メディアであり、「俺ってスゴイ!」を感じるメディアである側面に気付いたからです。
それに、「すごい人だけをTwitterでフォローする」のをやめ、「普通の人」「それなりの人」もフォローすることで、精神的バランスが撮れるようになったのです。
「すごい人」だけをフォローしていると、「すごくない」自分を無意識的に卑下してしまう。
自分が大学院生時代に病んでいたのも、SNSが原因の1つだったんだな〜、と今気付きました。
新たな『自由からの逃走』。
サブタイトルの〈「誰か」に振り回されない生き方〉というのは文字通り当てはまります。
「働く女性にとって結婚は、今やそれほどメリットのあるものではないのだ」(99ページ)とあります。
だからこそ、〈結婚=幸せ〉という周囲の感覚と自分の考えを照らし合わせる必要が出てくるのです。
にも関わらず、総務省などの調査では結婚願望のある女性は減少していないそうです。
どう考えても”お得”はあまりない結婚から、今の女性たちがなかなか離れられないのはなぜなのか。
それはやはり、結婚が彼女たちにとって、最大の「自分の証」に見えてしまっているからなのだろう。(100ページ)
昔、何かのワークショップでこんなのをやりました。
「あなたが呼ばれたい褒め言葉を書いてください。
それを横の人と交換して、心をこめて相手にその言葉を読んであげてください」
私は「頑張ってるね」「いいね!」「素敵だね」などと羅列しました。
隣の人にそれを読んでもらうと、何故かすごく嬉しい気分になりました。
・・・これ、残念ながら自分の自己承認が低い表れなのかな??って思います。
ともあれ、男性以上に女性は「誰か」との比較で振り回されます。
「何をしてもいいよ」という自由な状態であるのに、
「もっと頑張らないといけない!」
「結婚しないと、誰も認めてくれない!」
周囲からの「思い」を感じてしまい、満たされないのです。
自由なのに、抑圧を感じる。
まさに『自由からの逃走』です。
その点男性はノー天気なので、「こんなに働いている俺、カッコいい!」だけで満たされてしまいます。
「モテない同士、俺たち仲間だよな!」で騒いで酒が飲めるのです。
「あきらめ」が肝心?
外国人と結婚する日本人女性の話が出てきます。
普通の「日本人男性」と違い、言語も文化も知識も習慣も違う。
だからこそ、「国が違えば、あきらめもつく」(129ページ)発想になる人もいるようです。
完璧な「彼」なのではなく、「まあ仕方ないか」という「あきらめ」があるから案外結婚が上手くいくのかもしれません。
実際の話、高スペックな「旦那」はほんの一握りしかいません。
大手企業の若手エリート、優しいし働く女性への理解もある。
思いやりがあって、なおかつ仕事も家庭も充実させる努力をする。
・・・そんな男性、羨ましいですね。
私の周り?
そんな人いるかな・・・・。
そんなアリもしない「高スペック」男性ではなく、「あきらめ」が付くレベルの男性なら、意外に幸せになれるかもしれません。
「まあ、仕方ないか。今でもそこそこ幸せだし」
だから、一緒にいて落ち着くし、自分を尊敬してくれる「年下男性」や「外国人男性」と結婚するシングル女性もいるようです。
この場合、「年下だから「比較」しない」(142ページ)とある通り、「比較」しない幸せを獲得できるのかもしれませんね。
「子ども」によって、自己承認を得ようとする人々
また、「子ども」の存在によって、満たされる女性も数多くいます。
いろんな習い事や成績で結果を残すと、母としても自己承認されるようです。
香山リカはこうまとめます。
本当は、自分が自分に誇りを持てるか、自分を好きになれるかということと、子どもがいる、いないということは、直接には関係がない。子どものいる女性も、自分に誇りを持ちながら、「これでいいのだ」と自分の選択、生き方を受け入れることがまず必要だ。そして、ちょっとうつむいている人だけでなくて、自信満々に見える人でも「誰もがこれでいいの?」と悩んでいるという前提で、相手の気持を想像してみることが必要なのだ。(153ページ)
この「誰もがこれでいいの?」と悩む状況は、いまの時代特有の悩みでしょう。
社会学では「リキッド・モダニティ」(バウマン)という言葉があります。
リキッド、つまり液状化した近代(モダニティ)ということです。
「こうすれば、幸せになる」というルート、
「こう生きればいい」という指標がなくなった現代社会を示す言葉です。
かつては「いい学校に行き、いい会社に入れば一生安泰」。
「女性はまず結婚し、子育てをすればもう幸せ」という、一応のルートがありました(あるように皆が信じていました)。
それが、いまや「何をすればいいか」全く見えなくなります。
女性の場合、それがさらに強く出ます。
仕事をするか、しないか。
結婚するか、しないか。誰と結婚するか。
子どもを生むか、生まないか。
出産後、仕事に復帰するかしないか。
子育てをどうするか。
キャリアアップをどう考えるか。
・・・無限に考えることがあります。
「何をすればいいか」全く見えない。
だからこそ、どこか満たされない。
「これで、自分はいいんだろうか?」と悩んでしまう。
生きづらい世の中を生きるには、どうしたらいいの?
私なりにアドバイスすると、おそらくは「いまは生きづらい時代」という現状を知ることでしょう。
結婚している人もしていない人も、
子どもを持っている人も持っていない人も、
誰かが特別「満たされている」わけではないのです。
そうではなく、「いま、一応生活もできているし、まあ不幸ではないわな」という諦観(ていかん)をするのも大事ではないか、と思うのです。
現状を見据えたうえで、「別に食えていないわけではないから、自分、これでいいんじゃないの」と認めてあげること。
それが大事なのではないか、と思います。
香山リカも言います。
自分の努力やがんばりですべてが手に入る、もっとすばらしい人生になれるはず、と思うのをちょっとやめて、「まあ、これでいいか」とそこそこで手を打ってみる潔さ、これは大事である。
手を打つことは「妥協」でも「敗北」でもない。(153-154ページ)
「私には何かが足りないわけじゃない。今の私で、けっこうだいじょうぶ」と自分を信頼し、「おー、けっこうやるじゃん」と思い上がりに近いくらいの自信をも持つようにすることだ。(182ページ)
・・・私?
早稲田時代の友人の平均所得を大きく下げる存在ではありますが、自分を「これでいいんじゃないかな」と認められています。
幸せですよ。
ミニマリストに学ぶ「幸せ」感
ミニマリストの方々のブログを見ると、割と幸せな人が多いですよね。
ミニマリストになった人は、余計なものを持ちません。
ある意味、自分への満足が高い。
だからこそ、幸せに感じられるのでしょう。
ミニマリストを「目指す」人は、ちょっと不幸な人が多いです。
「ミニマリストにさえなれれば、もっと満たされる」という思いが強いからです。
けっきょく、これもミニマリストと自分を「比べ」てしまっていますね。
それにしても、女性の生きづらさは男性以上ですね。
まだまだ続く「男は仕事ができてナンボ、女は男に愛されてナンボ」という価値観。同じように仕事ができても、評価を受けるのは男性ばかり、という男女不平等な社会。そして、無意識のなかにもひそむ「女って、男にはある何かが欠けているかも」という不安や後ろめたさ。さらには、「がんばるあなたを応援するわ!」と言いながら実はこっそり足を引っ張ろうとする母親。
女性たちは、こんなにたくさんの不自由、圧迫、妨害に囲まれているのだ。
そういう状況に長い間いるうちに、もし男性なら自信満々になってもおかしくないくらい成功していても、まだ「私ってまだ何か足りないかも」と劣等感やあせりを感じてしまう。それも不思議ではないだろう。自分のやっていたことを自信に変えて堂々としていることが、女性には苦手なのだ。(175-176ページ)
だからこそ、フッと肩の力を抜き、
「私は、私で、いいんじゃないの?」と認めてあげることが必要なのですね。
無駄に「こうしなければいけない」と言ってくる外野をうまく対処する工夫をしたら、
あなたはもう「あなた」として満たされるはずです。
今の時代は、実は「自由」なのです。
「ふつう」を外れても、人生は続くし、本当に仲の良い友人はちゃんとついてきてくれます。
香山リカの「くらべない幸せ」3つのヒント
最後に、香山リカが本書のラストに書いている、3つのヒントを見てみましょう(186ページ)。
(1)不安や心配がわいてくるのはあたりまえ、そのとき恐れずくらべず、ゆっくりやりすごせば大丈夫。
(2)人とくらべて刺激のない毎日だからつまらない、というのは間違い。
どんな単調に見える毎日のなかにも、必ず心温まるドラマがある。(3)幸せと生活のレベルとは、まったく無関係。
たとえ人から見て「かわいそう」と言われる暮らしをしていても、心はお姫さまで過ごすことだって可能。
「大丈夫、大丈夫」と、誰も言ってくれないからこそ、
せめてあなたくらいは自分に言ってあげてくださいね。
そうすると、もっと満たされるはずです。
さらにプラスアルファ。自分を「満たす」には?
人を満たすことでしか、人は自分を満たすことができません。
「私を満たして!」でなく、周りを満たそうとする努力こそ、大事なのかもしれません。
これは宮台真司の『14歳からの社会学』にもありました。
(宮台さんは「承認」という言葉で説明しますが)。
自分は今のままでいい。
そうやって自分を「満たす」ためには周りを「満たす」必要があります。
周りに、「あなたはあなたのままで大丈夫だよ」と伝えることで、あなた自身も満たされるはずです。
突然のコメント、失礼いたします。
書評でつながる読書コミュニティサイト「本が好き!」を運営しております、和氣と申します。
今回レビューを拝読し、ぜひ本が好き!にも書評を投稿していただきたいと思いコメントいたしました。
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