古市憲寿, 2015, 『保育園義務教育化』小学館.

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私より、ただ3つ年上で、
東大社会学出身で、
エッセイ文体が上手く、
ときにサラッと毒舌を書く。

そんな意味で、大学院の頃から古市氏は「あこがれ」を感じる研究者だった。
本書はそんな古市氏の魅力が溢れている。
(人によっては鼻につく本ではある。まあ本人も自覚しているんだけど)

日本では「少子高齢化」と言われている。
しかし、「子どもを持ちたい」という思いを持つ人へは非常に風当たりが悪い。
だからこそ、それを改善するアイデアが「保育園義務教育化」だ。

これは本書のスタンスである。

今の世の中、「子どもを持ちたい」人や「子どもを持っている人」、特に「お母さん」へのバッシングが強い。

実際、数多くの育児ノウハウはあふれているのに、子どもを産んだ「お母さん」の身体に対して日本はあまりにも無頓着だ。(32)

 

子どもの育児を「孤独」に行うことは、母親にとっても負担が大きくなる。
それが結果的に育児放棄や児童虐待を招くこともある。

仕事をしようにも、都心部では待機児童が多すぎて認可の保育園を使用できない。
しかたなく無認可の保育園に子どもを預けると、【母親の給料と変わらない額】を払うことになることもある。

保育園義務教育化には、母親支援だけでなく、日本経済にも貢献する。

社会学の分析でも「保育サービスなどの拡充によって、働く女性が増えた時に、その国は経済成長率が上がる」(122)ことが示されている。

きちんとした保育サービスを整備すれば、女性が働いてくれ、労働力人口が増える。
さらに忙しく働く女性はルンバや食洗機を買ったり、家事関連産業の拡大にも貢献する。また現代は女性向けの仕事が増えているため、女性が働くと企業の生産性も上がる。(…)女性の労働力率を上げるには、子ども手当を支給するのではなく、保育園を整備したほうが効果的なこともわかっているという。
「経済成長」が大好きなおじさんたちは、「東京オリンピック」や「リニアモーターカー」といった話題は大好きだ。そのくせ「少子化」や「待機児童」といった話題には、「なんとかします」といいながら、あまり興味がなさそうである。
しかし実は、「保育園義務教育化」は、少子化解消のみならず、日本の経済成長にも貢献するアイデアだったのだ。(123)

これらの背景には、次のものがある。

社会のあらゆる制度や環境が、全力で少子化を促進しているかのようだ。日本は実質的に「一人っ子政策」をしていたのだ。
そんな状況を解決するアイディアが「保育義務教育化」だった。
「保育園義務教育化」はただ少子化解消に貢献するというよりも、社会全体の「レベル」を上げることにつながる。良質な乳幼児教育を受けた子どもは、おとなになってから収入が高く、犯罪率が低くなることがわかっている。
同時に「保育園義務教育化」は、育児の孤立化を防ぐ。今の日本では、子育ての責任がとにかく「お母さん」にばかり背負わされている。
子どもが電車や飛行機の中で泣くことも、学校で勉強ができないことも、友だちと起こしたトラブルも、何かあると「お母さん」のせいにされる。
だけど、本当は育児はもっと社会全体で担ってもいいもののはずだ。しかも子育て支援に予算を割くことは経済成長にもつながる。いいことずくめなのだ。(158-159)

ちなみにこの「保育園義務教育化」、カバーにもあるが「もう世界では始まっている!」。

やらない理由はないようだ。

2Q==

 

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