別名「科学の伝道師」でもある鎌田浩毅(かまたひろき)。
本書は「火山マニア」「科学バカ」だった筆者が、人に物事を伝える、
つまり「コミュニケーションの名人=ブリッジマン」(6)となるに至る努力をまとめた本である。
コミュニケーションのコツは、相手の考え方・空気、つまり「フレームワーク」を知ること。
学者がよく「専門バカ」と言われるのは、聞き手の考え方・フレームワークを無視して、自分の専門用語で語りまくるからだ。
私も大学院で社会学をやっていた人間だ。
そのため、その頃は「なんでも学術的に、固く言う」のが正しいと思っていた。
例)教育は、社会システムにおいてどのような構造的カップリングの機能を発揮しているのか。また発揮していく必要性があるのか。
いまから思うと「鼻持ちならない奴」だったことだろう(いまはどうか、は問いません)。
実家に帰る度、「大学院に行ってた時より話しやすくなった」と家族にも好評。
ちょっとは「ブリッジマン」に近づけたのかもしれない。
いい名言を幾つか。
人は本を読むとき、実は自分と同じ考えのところだけ拾い読みするのである。
「読書は既に自分が持っている考えをなぞる行為である」
誰が言ったか忘れてしまったのだが、私の記憶に残り続けている言葉である。(…)読書とは、実は自分のフレームワークを確認する行為なのである。文章を読みながら自分のフレームワークを呼び覚ましていると言ってもよい。(…)
実は、まったく新しい考え方を得る読書というのは、ほとんどありえない。一冊の本|の九割ほどが、既に自分が持っている知識の強化なのであり、そこへ一割だけ新しいことを付け足すのである。(25-26)
フレームワークの橋わたしで最も重要な事は、「相手に合わせて自分を一時的に変える」という点にある。ここにブリッジマンの考え方の要諦がある。案件に関するすべてを変更しなければならないのでは決してない。いま問題が発生している具体的な部分にだけ焦点を当てて、そこの解決だけを図るのだ。(…)|では、自分を変えるとは、具体的には何をどのように変えればよいのだろうか。性格の全部を変えるのは不可能であるし、その必要もない。この際に、一点だけ譲歩して変えるというテクニックがある。「一点だけ譲歩法」と呼んでみよう。(98−99)