「自己啓発」はあなたを不幸にする!〜リチャード・ワイズマン, 2009,『その科学が成功を決める』文秋文庫〜

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「私は自己啓発で勧められている方法の中には、科学的にかなり疑問のあるものもあると話し、自分を変えられなかった挫折感がどれほど精神的に人を傷つけるか説明した」(12)
社会人として働くようになると、まわりに「自己啓発オタク」が多数存在することに気づくようになる。
かく言う私も、どちらかというとその一人である。
しかし、そんな「自己啓発」を、科学的調査をもとにワイズマンは批判・検討していく。
個人的に面白いのは、次の話。(下線部は引用者)
「1953年に、ある研究チームがイェール大学の高学年の学生に面接し、うち3%の学生に人生で達成したい目標を書き出してもらった。20年後、同じチームが追跡調査をおこなった結果、目標を具体的に書きだした3%の学生のほうが、書き出さなかった97%のクラスメートより成功していたという。感動的な話であり、目標を立てるとそれが力になる実証例として、自己啓発の本やセミナーでよく引用された。だがこの話には小さな問題が一つだけあるーー現在わかっているかぎりでは、この実験が実際に行われたという形跡はないのだ。」(10)

なんだそりゃ!そりゃないぜ、の世界。
実際、自己啓発の世界はウソ・偽りが氾濫している。
本書ではないが「メラビアンの法則」なんかまさにその一つ。
閑話休題。
本書はいろんな「自己啓発」を批判的に見ていく。

「イメージトレーニングは逆効果」
「プラス思考が人生を暗くする」
「褒められて育った子どもは失敗を極度に恐れるようになる」(いずれも目次より)
そして科学的に実証された方法を提唱していく。
例えば「幸せ」になる方法として。
「微笑む」(43)・「背筋をのばす」(同)・「楽しげにふるまう」(44)
・・・なんかアランの『幸福論』にもあるものであるが、ウソ・偽りの自己啓発に批判的眼差しを持っていくという意味で重要な本ではある。
本書の「おわりに」に、「59秒でできる10のことがら」(317)が書かれている。
いずれも科学的に実証された、「幸せになる」方法である。
「感謝の気持を育てる」
「財布に赤ちゃんの写真を入れる」
「キッチンに鏡を置く」
「職場に鉢植えを置く」
「二の腕に軽くふれる」
「パートナーとの関係について本音を書き出す」
「うそを見抜くときは目を閉じ、相手の言葉に耳を傾ける」
「子どもをほめるときは、才能ではなく努力をほめる」
「成功した自分ではなく、前進する自分をイメージする」
「自分が遺せるものについて考える」
・・・「え?」と思うものもあるが、概ね「そのとおりだな」という物が多い。
さて、著者は『運のいい人、悪い人 運を鍛える四つの法則』のリチャード・ワイズマン。
心理学者でもあり、マジシャンでもあるという変な研究者。
そして私のあこがれの研究者でもある。
ワイズマンのいいところは話が具体的なところ。

そして小ネタが異常に多いこと(これは私の授業のやり方でもある)。

小ネタ例:
「バンパーのステッカーで危ないドライバーを見分ける」
「ステッカーの数が多いドライバーほど前の車両にぴったりつけたり、追突したりするなど攻撃的な運転をすることがわかった」(314)
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・・・・・・・・
あえて言うのであれば、私は「自己啓発」本が好きである。
それはリポビタンDに近い。
健康になるためにリポビタンDを飲む人はいない。
つかの間の「元気」のために飲むものである。
自己啓発本はそれに似ている。
いっときのやる気・つかの間の成功感・自己効力感を味わえるからだ。
 
そして自己啓発本は水泳の本にも似ている。
プールに行かないで水泳のコツを読んでも、本質的には役立たない。
しかし、「水泳ができるようになった気がする」ようになる。
畳の上の水泳、まさにイメージトレーニング。
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本質的な「成功」は、むしろ自己啓発本の外に存在している。
自己啓発本で読んだ内容を実践するか否か。
その単純なテーゼに、私はいつ気づくのだろう。

 

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