毎年、8月の半ばになると決まって「いまどきの若者は終戦記念日も知らない」という「調査」報告がなされる。
しかし、一般的に「8月15日」が終戦記念日なのだが、歴史学の世界ではそれは説の一つにすぎない。少し見てみるだけでも、①1945年8月14日説(宮中御前会議でポツダム宣言受諾が決定)、②1945年8月15日説(一般的なもの。この日に玉音放送)、③1945年9月2日説(ミズーリ号上での正式な終戦)があげられる。
もし調査員が②の説のみを知っていた場合、①や③の回答をした人間は「終戦記念日を知らない」人扱いをされることになる。アンケートの調査員はその分野のプロが行うわけではないので(ましてテレビ局の調査では、下請け会社に丸投げされることになる)往々にしてありうることだ。
また、何を持って第二次世界大戦の終戦(敗戦)とするかも、歴史学的には難しいことである。①や②の後も、北海道ではソ連軍が侵攻を続けており、少なくとも北海道では戦争が続いていたと見た方が適切であろう。
少し考えるだけでも、「いまどきの若者は終戦記念日も知らない」言説の欺瞞性に気付くことが出来る。若者を嘆く人間は、大体②説しか知らずに語っていることが多いはずだ。
教育学徒として気がかりなのは、大体「終戦記念日を知らない」言説の後、「もっと歴史教育をちゃんとやるべきだ」という安易な教育政策提言がなされることである。おそらく、「ちゃんとした歴史教育」を想定する人の頭の中には、①説や③説の存在はなく、②説の押しつけをすることしか想定されていないのだ。