私の実家そばに、公園がありました。
その公園には、トイレが二つ付いています。
不思議な事に、両方のトイレに似たような張り紙がありました。
1つは「トイレを汚すな」。
もう1つは「トイレをきれいに使いましょう」。
この2つのトイレ、どちらも似たようなトイレでした。
ですが、「トイレを汚すな」は常に汚く、
「トイレをきれいに使いましょう」の方は常にきれいでした。
清掃の回数はどちらも同じです。
なぜ、「トイレを汚すな」の方は汚くなってしまうのでしょう?
その謎解きをしていきます。
そのために、私の学校の話をしましょう。
私の学校には「〜〜してはいけません」という張り紙はありません。
「自分の傘かどうか確かめましょう」(「傘を間違えないでね」ではなく)や、
「カップラーメンの汁は三角コーナーに捨てましょう」(「ここにラーメンの汁を流すな」ではなく)と
書かれています。
なぜでしょうか?
それは「具体的に」の逆の効果が働くからです。
以前、映画『インセプション』を観ました。
レオナルド・ディカプリオが
「ゾウのことを考えるな」
…と指示をします。
そして、
「いま何を考えた?」
と聞きます。
相手は「ゾウ」と答えるわけです。
この話は心理学の教科書にも必ず書かれています。
なぜ相手は「ゾウ」と答えるのでしょう?
それは「〜〜してはいけない」という指示が
「具体的」であれば「具体的」であるほど、
相手の意識に強く刻まれてしまうからです。
「廊下を走るな!」といえばいうほど、
子どもにとっては「廊下を走る」という具体的なイメージが
明確な形で刷り込まれてしまうのです。
「相手が嫌なことをするな」というスローガンも、
無意味なことがこれで分かるでしょう。
「〜〜してはいけない」は、世の中にあふれています。
「悪を許すな」(正義感ドラマとかによくあります)
「ドラッグ、ダメゼッタイ」(ドラッグをなぜダメか言わないため、イメージが強烈に伝わります。ポスターも強烈に伝わります)
「やめよう、電線のそばの凧あげ」(「電線のそば」と「凧あげ」が具体的であるため、イメージが強烈に伝わります)
「〜〜してはいけない」は、強烈なメッセージです。
ですが、人間の脳は「否定形」に慣れていません。
ベイトソンの『精神の生態学』という本があります。
その中に、「動物は否定語を使わない」という話があります。
たとえば犬は「私は仲間だから噛まないよ」というメッセージをどう伝えるか、とベイトソンは説明します。
「噛まない」という言葉は、犬にはありません。
そのため、相手の犬に近づき、「あま噛み」することで、敵意の無さをアピールするのです。
つまり、「〜〜しない」を示すには、「〜〜」をやって見せないといけないのです。
動物って、大変です。
でも、人間もまだまだ動物の一部。
であれば、「〜〜してはいけない」というメッセージは、かなり難しいメッセージであると言えましょう。
リンゴを見せて「これはリンゴです」というのはカンタン。
でもミカンを見せて「これはリンゴではありません」と伝えることは難しいことです。
「〜〜ではない」「〜〜してはいけない」は、けっこう複雑なメッセージなのです。
だからこそ、「〜〜」の部分の方が簡単に伝わります。
結論です。
「〜〜してはいけない」を言うのをやめましょう(この言い方自体に問題があることは、本文のとおりです)。
なぜなら、「〜〜」が具体的であればあるほど、脳に強くイメージされるからです。
これは「具体的に」表すことの効果を、逆説的に示すものです。
なぜなら、具体的であればあるほど、相手に強くイメージされることがここからもわかるからです。
「具体的に」生きるために…
これからは「〜〜しましょう」をキーワードにしましょう。