書評:齋藤孝『天才がどんどん生まれてくる組織』新潮選書(2005)
齋藤孝氏の本は、高校時代から読んできた。
単なる教育学者であることを離れ、ビジネス書や身体論を書ける彼のスキル。大学院で教育学を研究した人間にとって「すごいな」と感嘆をしてしまう。
本書は12章に分けて「天才がどんどん生まれてくる組織」を論じていく。
私にとって「響いた」のは9章「漫画家の青春溶鉱炉」、つまりトキワ荘だ。
元々手塚治虫がいたアパートに、「ドラえもん」の藤子・F・不二雄や「天才バカボン」の赤塚不二夫、「仮面ライダー」の石森章太郎らが集い、日夜語り合っていた。
ストーリーを一緒に考えたり、酒を一箇所に集まって飲んだり。
忙しくなった仲間を手伝ったり、仕事が無い仲間に仕事を与えたり。
相互扶助的で、なおかつ賑やかに仕事を進めるスペースがトキワ荘であった。
「空間的な距離は、当然のことながら関係の濃密さをつくる。その場は、ひとつの志が渦巻くクリエイティブな磁場となる」(187)
トキワ荘を支えていたものは「ミッション」、つまり社会的使命だ。
若者は金より自由より何よりミッションが欲しいのだ。誰かに具体的な指令を出してもらいたい。それを遂行することで充実感を得る。有り余ったエネルギーが目的を持って一点に注がれ、形になっていく。太陽の光を一点に集めて火をおこす、そのレンズの役割が、ミッションなのである。
トキワ荘の住人たちには、漫画雑誌の編集者からのミッションが与えられていた。寝る時間を削ってそれに応え続けた。(…)何月何日までに何ページの原稿を仕上げよ。こうした具体的なミッションこそが、若者を鍛える。甘えは許されない。それだけに仲間同士の結束は強くなる。そのミッションを遂行するために周りが一生懸命手伝うのだ。社会とつながったミッションが、気楽とも言える青春時代の共同生活に張りを与えていたのである。(186-187)
皆と困難な課題に挑戦することで、やり甲斐や楽しさが共有される。
そのことで益々関係が深まる。
そんな「ONE PIECE」的関係性が、トキワ荘にあったのだろう。
いま私はシェアハウスに住んでいるが、この空間もトキワ荘的なシェアハウスとしたいと思う。
☆ちなみに、トキワ荘にあやかった「トキワ荘プロジェクト」というのが今あります。下記のように、漫画家志望者専門のシェアハウスとしてトキワ荘を想定しているようです。
本気でプロの漫画家を目指す若者に、都内で低家賃の住宅(シェアハウス)を提供しています。