内田樹『狼少年のパラドクス』より

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 研究者に必要な資質とは何か、ということをときどき進学志望の学生さんに訊ねられる。
 お答えしよう。それは「非人情」である。それについてちょっとお話ししたい。
 大学院に在籍していたり、オーバードクターであったり、任期制の助手であったり、非常勤のかけもちで暮らしていたりする「不安定さ」を「まるで気にしないで笑って暮らせる」能力である。(…)
 あえてこの道を選ぶ以上、それは「生涯定職なし、四畳半暮らし、主食はカップ麺」というようなライフスタイルであっても「ま、いいすよ。おれ、勉強好きだし。好きなだけ本読んで、原稿書いていられるなら」と笑えるような精神の持ち主であることが必要である。(…)
「非人情」の人間の場合、「私はこうしたい、これが知りたい、これを語りたい」という強烈な欲望だけがあって、他の人が自分に何を期待しているか、その結果を他人がどう評価するか、自分の言動が他の人にどういう影響を与えるか、というようなことはほとんど念頭にのぼらない。(…)
 で、私が思うに、研究者に限らず、独りで何かをやろうとする人に必要な資質はこの「非人情」である。(…)
 非人情でなければ「不条理」に耐えてなおかつハッピーに生きて行くことはできない。四畳半でカップ麺を啜りながら、自分の原稿を読み返して「おいおい、おれって天才か。勘弁してくれよ。そういえば、心なしかおいらを祝福するように空がやけに青いぜ」と温かい笑みを浮かべることができるようなタイプの人間だけが、いまの時代に幸福に生きることができる研究者だろうと私は思う。
 大学院進学を予定している学生さんたちは自制して、自分がどれほど「非人情」であるかをよくよくチェックすることをお薦めしたい。(pp178~181)

→「生涯定職なし、四畳半暮らし、主食はカップ麺」とあった。梅田望夫の『ウェブ時代をゆく』にも〈ジャンクフードしか食えないけれど、プログラムを組んでて幸福〉という若者像が描かれる。
→私も結構「非人情」かも。下の投稿みたいに〈誰にも頼まれていない原稿〉を書いて読み返すのが好きだし。

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