短編小説・夏屋さん

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

 少女が街を歩いていると、一人の中年男性に出会った。寒空の下、その男だけは半袖シャツにサンダル履き。周囲から浮いた姿で屋台をやっている。

「おじさん、何やってるの?」
 少女は尋ねた。「おじさん」と呼ばれたその男性は、
「俺かい? この看板見てごらん。『夏屋』をやっているんだ。夏を売って、お客さんに冬を楽しく過ごしてもらうんだよ」
「へー、そんなお仕事があるのね。全然知らなかったわ」
「この仕事、なかなか大変なんだ。お嬢ちゃん、ちょっと夏を買っていかないかい?」
「おいくら?」
「子どもには1分100円で販売してるんだ。どうだい」
「はい、100円」
 男は手元のかき氷機を手早く回し始めた。下に氷がたまっていくのを少女は見ていた。すると、ふいに自分が海岸に佇んでいる心持がしてきた。海に反射する太陽がまぶしい。
 気づくと、再び男の姿が目の前にあった。
「気に入ったかい、お嬢ちゃん?」
「うん、とても」
「その先に屋台があるだろう? そこには俺の女房が店をやっているんだ。『秋屋』と書いてあるからすぐ見つかるよ。そこから先に行くと俺の親父がやっている『冬屋』がある。ちょっと行ってみな」
 少女は男の言う2つの店に寄ってみた。100円を払い、それぞれの季節を楽しんだ。素敵な仕事だと、少女は思うようになった。そして、独り言のようにつぶやいた。
「わたし、大きくなったら絶対『春屋』さんを開くわ。そこでみんなに春を売るのよ」
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINEで送る

SNSでもご購読できます。

コメント

  1. いろんな友人に見せた所、意外に好評でした。

    感想をお聞かせください。

  2. Anonymous より:

    (-_-)b

コメントを残す

*

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください