Collins, Randall(1985,1994):友枝敏雄 訳者代表『ランドル・コリンズが語る社会学の歴史』、有斐閣、1997。

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原題:Four Sociological Traditions

●序文

A~C:「社会学の偉大な3つの伝統」

A「紛争理論の伝統」
・マルクス/エンゲルス/ヴェーバー
→「資本主義、社会階層、政治紛争の理論と、それらに関連する社会学の巨視的・歴史的テーマを展開」(ⅰ)

B「デュルケム理論の伝統」
①:「社会のマクロ構造に注目するもの」(ⅱ)モンテスキュー/コント/スペンサー/マートン/パーソンズ
②:「対面集団で形成される儀礼をとおして、集団の連帯を生みだすメカニズム」(ⅱ)ゴフマンによる日常生活における儀礼の分析

C「ミクロ相互作用論の伝統」
①プラグマティズムの伝統:パース/ミード
②象徴的相互作用論の系譜:クーリー/トマス/ブルーマー
③現象学的あるいは「エスノメソドロジー的」社会学:シュッツ/ガーフィンケル

第2版の追加
D功利主義(合理的選択)理論の伝統

●プロローグ 社会科学の誕生

・「デュルケムの学問上の直接のライバルは心理学だったから、彼は社会学的分析のレベルを心理学的分析のレベルから区別することに心を砕いた」(41)

「ドイツとフランスで社会学の将来性のある端緒が現れたあと、世界政治の激動によって社会学はほとんどアメリカに移ってしまった」(42)

コメント
 ・日本と違い、ヨーロッパの「大学」システムは、中世から一貫性をもっていると言うことが文章から伺えて興味深かった。「大学改革」は遥か以前から行われてきているということは非常に面白い。

●第1章 紛争理論の伝統

・紛争理論化としての「マルクス」を見ていく。コリンズはマルクスよりもエンゲルスを社会学において重視する。
・マルクスはそのまま大学に残りつづけていたばあい、気鋭の哲学教授になっただろう、というのがコリンズの立場である。しかし「エンゲルスがいなければマルクスは、シュトラウス、バウアー、そしてフォイエルバッハが切り開いた方向をさらに一歩進めた、唯物論的傾向を持った青年ヘーゲル派の左翼であった」(56)。

「いちばん重要なことは、マルクスが経済学を発見したということである」(49)

「事実、最初に経済学の重要性を理解し、適切に批判し、ブルジョア・イデオロギー的理解から抜け出ていたのはエンゲルスその人であった」(54)

・「マルクスの方がつねに同時代の政治家であったのに対し、エンゲルスの方は純粋に知的で偉大な歴史社会学者であった」(55)
「マルクス個人の迷宮の中には、社会学が入り込む余地はなかった。彼の見方のなかに社会学の息吹を吹き込んだのはエンゲルスであり、エンゲルスの著作」「こそが社会学がこの「マルクス主義」の考え方から学びうるものを伝えているのである」(57)
・「もし言葉遊びが許されるなら、「マルクス主義」というラベルは神話であり、社会学という目的のためにはマルクスは「エンゲルス主義者」とよんだ方がよい、と言うことができるだろう」(58)

・「唯物論の基本原理は、人間の意識は一定の物質条件にもとづいており、それないしには存在しえない、というものである」(62)
「いずれの支配的観念も支配階級の観念である。なぜなら支配階級は精神的生産手段を統制しているからである」(62)
→この辺、アルチュセールの国家のイデオロギー装置論やグラムシのヘゲモニー論を思い出す。

・「政治・経済・社会階級は決定的につながっている。なぜなら経済システムは所有をめぐって組織され、所有は階級を定義し、そして所有は国家によって維持されるからである。所有物は所有されているもの自体ではない。所有物が誰かによって所有されるのは、国家が所有者の法的権利を確立し、その権利を保証するためには警察権力、必要ならば軍隊を用いるというかぎりにおいてである」(66)
→研究者や経済人が体制派寄りになってしまう理由である。

・「政治は国家を統制するための闘争である。マルクスとエンゲルスの考えによれば、支配的な有産階級がつねにこの闘争に勝利するが、基本的生産関係が移行しつつある歴史的状況は例外である。このときには旧支配階級の政治的支配は崩れ、新しい階級がこれに取って代わる」(67)

・「政治の混沌とした現実を理解するための強力な道具」(68)
「1つの決定的な原理は、権力は動員の物質的条件に依存するというものである」(68)
→「有産階級が政治を支配するのは、多数の政治的動員手段を持っているからである」(69)
☆金融資本も社会関係資本も持っている。
しかし「ビジネスが一1つの巨大な独占へと向かうにつれて、労働者たちもそれに応じた統一がなされ、最終的には数の力を獲得し、資本家たちを圧倒する」(71)という。
 けれどこのことは実際生じなかった。「というのも、政治的動員手段が変化し、独占の過程が中間点で安定化したからである」(69)
・「強権的な革命政府だけが、ビジネスや金融業務のすべてを政府が即座に掌握し、完全な統制経済を布くことによって、ビジネス界の不信によってひきおこされる経済危機の時期を回避することができるのである」(70-71)
・「革命がこのように他の誰かの利益のための虚偽意識や虚偽行動といった奇妙な性質を持つのは何故だろうか」「精神的生産手段を握っているため、上流社会階級は、何に関する革命で誰が敵かということを定義することができるのである」(72)
→これ、ヘゲモニー論だ。

・「1つの一般的な原理は、同盟は敵の存在によって結成されるというものである。敵が消失してはじめて、同盟者間の戦いが自由となる」(73)

・ウェーバー「資本主義は人間の自由と経済的生産性をともに高める最高の社会体制であると、彼は実際には信じていたからであった」(78)

・紛争とは多元性がもたらすもの
「ウェーバーを語るうえで何よりも中心に位置づけられなければならない事実は、彼が世界を多元的なものとみなしていたことである」(80)「多元的なパースペクティブを取った結果、彼はもっとも根本的な意味で紛争の理論家となったのである」(81)それは「紛争とは、諸事象の多元性そのものが形を取ったもの、あるいは社会を構成する異なる集団、利害、パースペクティブが織りなす多元性が形を取ったものだからである」(81)
・「結局のところウェーバーは、歴史というものを、多方面にわたって展開する複雑で多面的な紛争の過程とみなしていた。単純化された進化論的な段階概念、あるいは理論家が複雑な歴史的現実に対してとかく当てはめようとしがちな整然とまとまった他の類型は、ウェーバーの敵であった」(82)

・「階級とは何らかの市場で特定の独占度を共有している集団であることを、忘れてはならない。そして階級がこのことを成しとげるのは、それが組織化され、1つののコミュニティを形成し、自分のまわりに張りめぐらされた何らかの法的・文化的な障壁を通じて1つの意識を獲得することによって―手短にいうと、身分集団となることによってーなのである」(85)

・国家の武器
①武装:国家は「それゆえに、他のすべての組織を支配することが可能となる」(88)
②正当性:「こちらは文化的・情緒的な領域という面にかかわる」(89)「マルクスとエンゲルスの言葉によれば、国家とは、イデオロギーを生成する巨大な機関である。またヴェーバーの言葉によれば、国境内にいる多数の人々がみずからを単一の身分集団、すなわち国民の一員であると感じるようにし向けることができるのが、成功を収めた国家ということになる」(89)
→カリスマというのもこの正当性を担保する。
・「正当性は無からは生じない。それは作り出されるものである。そして正当性をつくり出すさまざまな組織は、精神的生産手段(最近私は、これを「情緒的生産手段」とよんでいる)のもう1つの側面とよぶのがふさわしい」(89)
→☆一億層中流や「社会イズム」は国の一元性を示す働きで「正当性」を付与しているのか。

・ウェーバーの弟子・ミヘルス(97)

コメント
・ギデンズの再帰性の話をするならば、彼はパーソンズの図式に対し〈なぜパーソンズの図式を知った人であっても、その図式に従ってしまうのか〉という批判の仕方をしている。マルクス主義にもそのような傾向があるのではないか。つまり、「革命の必然」を述べている書物を資本家が読むとき、資本家の中で「再帰」が起きる。その結果、革命を防止するほうに動いてしまう。それがケインズ主義のように結果的に労働者に益する方向に動くこともある。「革命」防止法としてよむことの方が多いだろう。そうした場合、逆説的ながらマルクス主義の研究が進めば進むほど、マルクス主義的革命が起こらないようになってしまう。
 マルクスやエンゲルス(コリンズの『ランドル・コリンズが語る社会学の歴史』を読むと、エンゲルスの社会学的貢献の大きさがよくわかるため列記した)の書物が読まれるほど、影響を受けて「革命」を起こそうとする人が増える。はじめはソ連や中国で成功する。しかし、それらの革命国の成功が他国に伝わると、なんとか「革命」を起こさない方向を人びとは考えるようになる。つまり、マルクス主義の考えが広まるほど、それが再帰を起こし、人びとに「革命」を起こさないように機能するという「逆機能」がおこるのである。

・感想
この本、購入して何度も読みたい。

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